2026年07月27日(月)
- パワーエレクトロニクス基礎
パワエレ開発ではどのような装置や開発環境を使用するのか?必要な機器と役割をわかりやすく解説【パワエレ開発シリーズ③】
この記事では、パワエレ開発用コントローラ「デジタル制御システム PE-Expert4」などの開発環境にも関連するパワエレ開発について、設計、試作・実装、確認・評価の各場面で使用する装置や開発環境を解説します。
また、実験システムにおける電力の流れと信号の流れについても分かりやすく紹介します。
前回の記事では、パワエレ開発を要求整理、設計、試作・実装、確認・評価という流れで紹介しました。実際の開発では、各工程の目的に合わせてシミュレーション環境、制御プログラム開発環境、HILS、コントローラ、電源、インバータやコンバータ、負荷装置、計測器などを使用します。
これらの役割と接続関係を理解すると、パワエレ開発で使用する実験システムの全体像を捉えやすくなります。
パワエレ開発ではどのような装置や開発環境を使用するのか?
パワエレ開発に使用するものは、設計やプログラム作成に使う開発環境、制御プログラムを検証するHILS、実機の実験・評価システムを構成する装置に分けると、役割を捉えやすくなります。
| 区分 | 装置・環境 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 設計・実装に使う開発環境 | シミュレーション環境 | 回路動作や制御応答をモデル上で検討する |
| 制御プログラム開発環境 | 制御プログラムの作成、書き込み、デバッグを行う | |
| 制御プログラムの検証に使う環境 | HILS | 実際のコントローラとリアルタイムモデルを接続して制御を検証する |
| 実験・評価システムを構成する装置 | 電源 | インバータやコンバータへ直流または交流の電力を供給する |
| インバータ/コンバータ | 入力された電力を目的に合った電圧、電流、周波数などへ変換する | |
| コントローラ | 測定値の取得、制御演算、PWM出力などを行う | |
| 負荷装置 | 出力側に接続し、評価に必要な動作条件を作る | |
| 計測器 | 各部の電圧、電流、波形、電力などを測定する |
開発対象や評価内容によって、必要な装置や構成は異なります。また、一つの装置が複数の機能を備えている場合もあります。まずは個々の製品名ではなく、設計、実装、検証、電力変換、制御、負荷、測定という役割で整理することが大切です。
パワエレ開発ではシミュレーション環境をどのように使用するのか?
シミュレーション環境は、設計した回路の動作や制御システムの応答をモデル上で検討するために使用します。検討内容に応じて、回路シミュレーションと制御シミュレーションを使い分けたり、組み合わせたりします。
回路シミュレーション
回路シミュレーションでは、回路図や部品モデルを使って、各部の電圧・電流やスイッチング動作などを計算します。回路方式、使用する部品、回路定数などを検討するときに利用されます。
制御シミュレーション
制御シミュレーションでは、制御対象と制御方式をモデル化し、指令値や動作条件を変化させたときの応答を確認します。制御方式の比較や制御パラメータの調整などに利用されます。
シミュレーションで得られる結果は、使用したモデルと条件に基づくものです。実機で得られた波形や測定値と比較し、必要に応じてモデルや条件を見直すことで、その後の設計や検討にも活用できます。
制御プログラムはどのような環境で作成・実装するのか?
制御プログラム開発環境は、制御プログラムを作成し、コントローラで実行できる形式へ変換して書き込むために使用します。C言語などで記述したプログラムをコンパイルし、実機へ書き込む機能に加えて、プログラムの実行・停止や変数の確認・変更など、デバッグに必要な機能を備えたものがあります。
モデルベース開発では、作成した制御モデルからコードを生成し、コントローラへ実装する方法もあります。モデル上の結果と実機の結果を比較しながら、制御モデルや制御プログラムを調整します。
HILSでは何を検証するのか?
HILS(Hardware-in-the-Loop Simulation)は、実際のコントローラをリアルタイムシミュレータへ接続し、インバータやモータなどの制御対象をリアルタイムモデルとして動作させる検証方法です。
通常のシミュレーションでは、制御部分と制御対象の両方をモデル上で検討します。一方、HILSでは、作成した制御プログラムを実際のコントローラで動かし、コントローラから出力された信号をリアルタイムモデルへ入力します。モデルが計算した電圧や電流などの信号をコントローラへ返すことで、制御プログラムや入出力の動作を確認します。
実際のインバータや負荷装置へ接続する前から制御の動作を確認できるため、確認・評価の手段の一つとして利用されます。ただし、モデル上の検証であるため、最終的には実機を使った評価と組み合わせて確認します。
実験・評価システムはどのような装置で構成されるのか?
実機の実験・評価では、電源、インバータやコンバータ、負荷装置を接続して電力の流れる経路を作ります。さらに、コントローラから制御信号を送り、計測器で各部の動作を確認します。
構成装置 | 電源
電源は、インバータやコンバータの入力側へ電力を供給します。開発対象に合わせて直流電源または交流電源を使用し、試験に必要な電圧、電流、周波数などを設定します。
電力が一方向に流れるシステムだけでなく、電源側へ電力を戻す回生動作や双方向動作を行うシステムもあります。その場合は、電力を供給するだけでなく、戻ってくる電力を受け取れる設備が必要になります。
構成装置 | インバータ・コンバータ
インバータやコンバータは、パワー半導体をスイッチングし、入力された電力を目的に合った形へ変換します。例えば、直流を交流へ変換する、直流電圧の大きさを変える、交流の電圧や周波数を変えるといった役割を担います。
電力を変換する回路部分は、制御回路などと区別して主回路と呼ばれることもあります。一方、実験に使用するインバータユニットなどには、主回路に加えてセンサ、ゲート駆動回路、保護回路などが組み込まれている場合があります。使用する装置にどの機能が含まれているかを確認して、実験システムを構成します。
構成装置 | コントローラ
コントローラは、センサで測定した電圧や電流などを取得し、制御プログラムに従って演算を行い、インバータやコンバータへPWM信号などを出力します。
コントローラには、マイコンやDSP、FPGAなどを搭載した制御基板があります。また、演算を行う基板、A/D変換やPWM出力を行う入出力基板、プログラムの開発・デバッグ環境などを組み合わせた制御システムもあります。
次回の記事では、コントローラが測定値を取得してからPWM信号を出力するまでの流れと、マイコン、DSP、FPGAの役割を詳しく紹介します。
構成装置 | 負荷装置
負荷装置は、インバータやコンバータの出力側に接続し、評価に必要な動作条件を作ります。開発対象に応じて、抵抗・インダクタ・コンデンサ、電子負荷、モータ、発電機などを使用します。
例えば電源装置の評価では、電子負荷などを使って出力電流を変化させます。モータ駆動の評価では、モータへ機械的な負荷を与え、回転速度やトルクを変化させます。何を評価するかによって、必要な負荷装置と試験条件が変わります。
構成装置 | 計測器
計測器は、実験システムの各部における電圧、電流、波形、電力などを測定するために使用します。オシロスコープは、時間とともに変化する信号やスイッチング波形の観測に使用し、電圧プローブや電流プローブを組み合わせて測定します。
電力計やパワーアナライザは、電圧、電流、電力、力率、効率などの評価に使用します。測定対象の電圧・電流の範囲、周波数、絶縁、帯域などに合わせて、計測器とプローブを選びます。
電力の流れと信号の流れはどのように捉えるのか?
実験システムの接続関係は、電力の流れと信号の流れに分けると理解しやすくなります。
- 電力の流れ:電源からインバータやコンバータを通り、負荷装置へ電力が流れる
- 測定信号の流れ:センサで測定した電圧や電流などの信号がコントローラへ入力される
- 制御信号の流れ:コントローラからインバータやコンバータへPWM信号などが出力される
計測器は、この電力の流れや信号の流れの各部を外部から観測します。一方、制御プログラム開発環境はコントローラと接続し、プログラムの書き込みや内部変数の確認などに使用します。
装置の名称だけでなく、どこに電力が流れ、どの信号を測定し、どこから制御信号を出すのかを確認すると、それぞれの装置の役割と接続関係を整理しやすくなります。
まとめ|ワエレ開発で使用する装置と開発環境の全体像とは?

パワエレ開発で使用する装置と開発環境の全体像。回路・制御シミュレーションからHILS、双方向電源、インバータ、コントローラ、負荷装置、計測器までの開発フローを示しています。
パワエレ開発では、設計や事前検討にシミュレーション環境を使用し、制御プログラムの作成や実装に制御プログラム開発環境を使用します。また、実際のコントローラとリアルタイムモデルを接続するHILSを、制御プログラムの確認・評価に利用することもあります。
実機の実験・評価システムは、電源、インバータやコンバータ、コントローラ、負荷装置、計測器などで構成されます。電力の流れと信号の流れを分けて捉えることで、各装置の役割と接続関係を理解しやすくなります。
次回は、コントローラにおけるA/D変換、制御演算、PWM出力の流れと、それらの処理を担うマイコン、DSP、FPGAについて紹介します。
※パワエレ開発入門シリーズについて
本シリーズは、以下の弊社製品に関連したパワエレの基礎知識を解説するシリーズです。
- デジタル制御システム PE-Expert4
パワエレ開発用コントローラ - PE-ViewX
プログラム作成からデバッグまで効率的な作業環境を構築できる統合開発環境 - PE-Expert4 Toolbox™ Simulink®対応
Simulink®で作成した制御モデルをPE-Expert4へ実装するコード自動生成ツール - PE-Inverter
研究・開発・実験・組込み用に設計されたインバータユニット
パワエレの基礎から、インバータ制御、モータ制御、評価・開発まで、順を追って分かりやすくご紹介します。
関連製品・開発ソリューション
パワエレについてさらに学びたい方へ
Mywayプラスでは、インバータやPWM、モータ制御など、パワーエレクトロニクスの基礎を解説するコラムを公開しています。
パワエレの基礎を学んだ後は、インバータやモータ制御に関するシリーズもぜひご覧ください。
関連記事|モータ制御・ベクトル制御シリーズ
モータ制御、ベクトル制御、dq変換、実機評価、チューニングまでを体系的に学べる関連記事一覧です。
📘 初級編
モータ制御の基礎からベクトル制御・dq変換まで順番に学べます。
📕 中級編
実機評価やベクトル制御のチューニング、トラブルシューティングまでを体系的に解説します。
📚 用語集・まとめ記事
シリーズ全体の復習や、専門用語の確認に役立つ記事です。
関連記事|インバータ基礎・仕組みシリーズ
インバータの基礎からPWM制御、回路構成、設計の考え方までを体系的に学べる関連記事一覧です。
📘 初級編
インバータの基本構造やPWM制御、電力変換の仕組みを順番に学べます。
📕 中級編
PWM設計やインバータ設計で起こりやすい課題、設計時に押さえておきたいポイントを体系的に解説します。
📚 用語集・まとめ記事
インバータの基礎知識を整理し、シリーズ全体を体系的に学ぶための記事です。