2024年05月23日(木)
- PSIM Cafe
スイッチングデバイスの熱損失計算
回路シミュレータPSIMではスイッチングデバイスの損失計算を行うことができます。
PSIMで計算した結果をデータシートの結果と照らし合わせて確認してみました。
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【目次】
・損失計算に適したモデルについて
・Thermal(MOSFET(Eon))とThermal(MOSFET)の使い分け
・シミュレーション結果の確認
・トランジスタのスイッチング損失、導通損失
・ダイオードのスイッチング損失、導通損失
・デバイスモデルの入手方法
・デバイスモデルの作成について
・データシートから作成
・PLECSモデルから作成(PSIM Ver.2023.1から対応)
・デバイスファイルのフォーマットについて
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■損失計算に適したモデルについて
PSIMのスイッチングデバイスは様々な抽象度をもつモデルが含まれます。
Ver.2023.1のMOSFETのモデルレベルは以下のように種類があります。
・理想的
・レベル1
・レベル2
・レベル3
・Thermal(MOSFET(Eon))
・Thermal(MOSFET)
・SPICEモデル
・SPICEサブ回路(4-pin)
・SPICEサブ回路(5-pin)
それぞれの用途はマニュアルやヘルプでご確認いただくと良いと思いますが、熱損失を計算する場合はThermal(MOSFET(Eon))またはThermal(MOSFET)を利用します。
■Thermal(MOSFET(Eon))とThermal(MOSFET)の使い分け
SiCまたはGaNのデバイスを使用する場合はMOSFET(Eon)を使用します。
Siの場合はデータシートにスイッチングのEon/Eoffがある場合はMOSFET(Eon)を、ない場合はMOSFETを使用します。
■シミュレーション結果の確認
今回は下記にあるサンプル回路を使用しました。
PSIMのインストールフォルダ\examples\Thermal\buck – SiC MOSFET – SCT4036KW7 (Rohm).psimsch
1.トランジスタのスイッチング損失、導通損失
シミュレーション結果は下記のようになります。
SCT4036KW7のデータシートから損失を計算し、妥当な結果かどうかを確認してみます。
・トランジスタのスイッチング損失
PSIMで出力する損失の単位は[W]ですので、スイッチング損失を下記の式より求めます。
Psw[W]=Esw[J]*fsw*Vds/Vds_datasheet
Esw=Eon+Eoff
回路はVds=800Vなので、データシートからVds=800(Vds_datasheet)のときのスイッチング損失を読み取ります。
Eon=234[μJ]
Eoff=26[μJ]
Esw[μJ]=Eon+Eoff=260
fsw=100[kHz]
Psw=Esw*fsw=260*10^-6*100*10^3=26[W]
データシートから算出した結果は26[W]、PSIMのシミュレーション結果は27[W]でした。
・トランジスタの導通損失
導通損を下記の式より求めます。
Pcond=Ids*Vds*Duty_cycle
回路からIds=21なので、データシートからIds=21のときのVdsを読み取ります。
Vgsは18Vの曲線です。
Vds=0.79
回路よりDuty_cycle=0.5
Pcond=21*0.79*0.5=8.3[W]
データシートから算出した結果は8.3[W]、PSIMのシミュレーション結果は8.6[W]でした。
2.ダイオードのスイッチング損失、導通損失
サンプル回路のままだとトランジスタとダイオードに分流してしまい計算が難しくなるので、
トランジスタをOFFにした回路で確認しました。
結果は以下のようになります。
・ダイオードの導通損
Pcond_D=IF_D*VF*Duty_cycle
IF=Id、VF=Vds
回路からId=21なので、データシートからId=-21のときのVdsを読み取ります。
Vgs=0Vの曲線です。
Vds=-3.41
回路よりDuty_cycle=0.5
Pcond_D=-21*-3.41*0.5=35.8[M]
データシートから算出した結果は35.8[W]、PSIMのシミュレーション結果は36.7[W]でした。
・ダイオードのスイッチング損失
今回参照したデバイスシートに特性がなく、算出できないため計算結果は0です。
計算結果とシミュレーション結果は以下のようになりました。
SCT4036KW7 |
PSIM 結果 [W] |
計算結果 [W] |
|
トランジスタ |
スイッチング損失 |
27.2 |
26.0 |
導通損失 |
8.6 |
8.3 |
|
ダイオード |
導通損失 |
36.7 |
35.8 |
一例にはなりますが、PSIMの計算結果とデータシートから求められる損失の比較をしてみました。
何かの参考になれば幸いです。
■デバイスモデルの入手について
デバイスモデルは3つの方法で入手できます。
1.PSIMに予めインストールされているモデル
PSIMのインストールとともに下記のフォルダに保存されています。
インストールフォルダ\Device
2.デバイスモデルを作成する
下記に情報を記載します。
3.デバイスメーカから入手(ローム株式会社様)
デザインモデルページ
■デバイスモデルの作成について
デバイスモデルの作成方法は2種類の方法があります。
1.データシートから作成
下記2つのチュートリアルが参考になります。
PSIMのインストールフォルダ\Tutorials\Thermal\Tutorial – IGBT and MOSFET Loss Calculation in the Thermal Module.pdf
PSIMのインストールフォルダ\Tutorials\Tutorial – Loss Calculation and Transient Analysis of SiC and GaN Devices.pdf
下記にも情報があります。
Introduction to the Thermal Module
Changes in the Thermal Module between v2021 and v2022/v2023
Thermal Module Improvements | PSIM v12
2.PLECSモデルから作成(PSIM Ver.2023.1から対応)
開発元にてスクリプトと手順が公開されています。英文ですが、ブラウザの翻訳機能をご利用ください。
Converter for thermal device xml files from PLECS to PSIM
■デバイスモデルのフォーマットについて
PSIM Ver.2021b以前はデバイスモデルファイルのフォーマットは専用フォーマット(拡張子:dev)ですが、
Ver.2022.1以降ではxml形式です。
devファイルはVer.2022.1以降のPSIMを使用してxmlファイルへの変更が可能です。
xmlファイルからdevファイルへの変換はできません。恐れ入りますがPSIMのバージョンアップをご検討ください。