パワエレコラム

2012年09月20日(木)

  • PSIM Cafe

磁気エネルギー回生スイッチ(MERS)の応用 #2

力率を補償する交流スイッチ

 東京工業大学 原子炉工学研究所 卓越教授 嶋田隆一先生からの投稿です。 

交流電力の利用の問題点に力率があります。力率とは簡単には電力の利用率のことで,送った電力が返品されると説明すると理解されやすいです。交流では電流が常に変化するために負荷にインダクタンスがあると磁気エネルギーが充放電される結果,抵抗が無くても位相遅れの電圧が現れ,これが電力の利用効率を悪くします。

前回紹介したスナバ・ロスレス・スイッチ(Snubber Lossless switch)の2つのダイオードを逆導通スイッチにすると,電流双方向の交流スイッチとなって,スナバエネルギーばかりでなく,負荷回路の磁気エネルギーをも回生する結果,インダクタの電圧は自然に発生することで力率補償機能付きの交流スイッチになります。

今回は,この双方向磁気エネルギー回生スイッチを交流電源と負荷との間に直列に入れて,オン・オフの進み制御で力率を改善する機能をもった磁気エネルギー回生スイッチ(Magnetic Energy Recovery Switch,呼称:MERS(マース)スイッチ)についてPSIMを使って説明します。

回路の解説

  • 電源は交流50Hz200Vrmsです。
  • 負荷は,10Ωと31mHの直列,2.8kVA,力率0.7。
  • MERSコンデンサCmは220μFです。
  • 対角のペアのスイッチは電流の向きによって半サイクルの間,同時にオン・オフされます。
  • オンの開始は電源位相に対して角度β(ベータ)進み制御されます。
  • 切り換え進み角βをゼロから大きくすると電流位相が進み,負荷電圧も力率が改善すると同時に増大し,さらに力率を進みにすると電圧は減少します。

 

β=60°時の解析結果

上:各部の電圧,中:ゲート信号,下:電流

解析結果の解説

  • 電流の位相が進んだ結果,力率はほぼ1に改善されています。
  • 電流波形もほぼサイン波です。
  • 電圧ゼロでのオフ,電流ゼロでのソフトなスイッチングです。
  • 220μFのコンデンサには直流パルス電圧が発生します。
  • その最大は264V,電流容量を満たせば小型電解コンデンサでも可能です。
  • 力率が改善された結果,負荷電圧が上昇して電力は増大します。
  • さらに位相を進ませると電圧は減少します。その様子はPSIMで確認してみてください。

 

応用例

  • 単相交流の力率の直列補償装置 ・・・ トランスレスワンパルスの直列コンデンサ。
  • 交流電圧の昇降圧 ・・・ 進相電流で系統電圧を上昇させます。
  • 扇風機などの単相モータ速度の連続調整 ・・・ 同期速度以下で回っている隈取コイルモータを速くも遅くも回せます。
  • 蛍光灯など放電灯の調光 ・・・ 従来の蛍光灯器具をそのまま使って省エネ・省資源化。
  • 理想的交流用開閉器 ・・・ ITで制御される半導体スイッチの基本回路です。

 

次回は応用として,従来トライアックでは不可能であった蛍光灯の調光が可能になるなどMERS交流電力制御の実例を示したいと思います。

この記事の回路ファイルのダウンロードはこちらから

 

 

この記事について

 

“力率を補償する交流スイッチ”
著作者    : 東京工業大学 卓越教授 嶋田隆一
データ作成日 : 2012.08.20
回路ファイル(schまたはpsimschファイル) : PSIMCafe-MERS_ACSwitch
作成時のPSIMバージョン : PSIM ver.7.0.5

 

引用元

 

“磁気エネルギーを蓄積回生する電流スイッチによる力率改善”
高久拓,磯部高範,鳴島じゅん,筒井広明,嶋田隆一
電気学会論文誌D,vol. 125-D,No. 4,pp. 372-377, 2005

 

特許

 

“スナバーエネルギーを回生する電流順逆両方向スイッチ”
出願番号:特願平11-202109
出願日:平成11年6月11日(1999.06.11)
特許番号:特許第3634982号(P3634982)


“磁気エネルギーを回生する交流電源装置”
出願番号:特願2004-14072
出願日:平成16年1月22日(2004.01.22)
特許番号:特許第3735673号(P3735673)

 

本研究を参照している論文

 

“Utilization of Magnetic energy recovery switch for compensation of reactive power. “
R. Huzlik*, V. Vetiska and C. Ondrusek* Brno University of Technology, Czech Republic,
2012 International Symposium on Power Electronics, Electrical Drives, Automation and Motion 978-1-4673-1301-8 / 12 / $31.00 c2012 IEEE

 

 

この回路を商用目的で利用する場合は株式会社MERSTechまでお問い合わせください。

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