Interview
次世代のエネルギーマネジメントシステムにおけるPSIMの活用
アルプス・グリーンデバイス株式会社
経営企画部 主任技師
仲野 陽様
様々なアプリケーションの検証に使用されているパワーエレクトロニクス回路シミュレータPSIM。今回は、「材料開発・応用技術」と「薄膜プロセス技術」を主体に、高効率電力変換インダクタや小型電力制御電流センサなどグリーンデバイスの開発に取り組まれているアルプス・グリーンデバイスの仲野様にお話を伺った。
高性能「インダクタ」と「電流センサ」で低炭素化・省資源化社会の実現に貢献
私たちは、スマートシティ、スマートコミュニティ、スマートハウスで肝となるエネルギーマネジメントシステムを、飛躍的に小型・高効率化・省エネ化するための部品の開発を手がけています。具体的には、電力変換機器、電力制御機器、電力計測に用いられるインダクタと電流センサです。いずれもアルプス電気で培ってきた磁性材料や磁性薄膜プロセスをコア技術としています。
インダクタには、東北大学と共同研究した金属ガラスの一種である独自の磁性材料を用いています。この材料を私たちは「リカロイ™」と呼んでいます。この材料を用いたリカロイ™インダクタは、小型・低損失が特長で、弊社が長年培った材料開発・応用技術をコア技術としています。
電流センサには、ハードディスクドライブの磁気ヘッドで量産実績のある磁気センサを応用しています。直流・交流いずれも検知でき、小型・絶縁計測・高速応答が特長で、薄膜プロセス技術をコア技術としています。
このような部品を材料・プロセス技術から一貫して開発、製造できることが、弊社の強みです。これらの強みを活かして、システムの小型・高効率化・省エネ化に資するユニークな部品を提供することで、社会ニーズである低炭素化・省資源化社会の実現に貢献できるよう、開発を進めています。
リカロイ™インダクタと電流センサ特性のモデリングにPSIMを活用
弊社ではPSIMを導入したばかりですが、幸い回路と部品のすり合わせ開発を一緒に進めているパートナー様がPSIMのヘビーユーザーのため、そのすり合わせ開発でPSIMを活用しています。具体的には、PSIMを用いて各種パワーエレクトロニクス回路で使われるインダクタや電流センサの仕様を検討しています。これまではシミュレーションをせずに実際のモノ作りを通して経験則で数値を決定することが多かったり、単にお客様から仕様をいただいて開発することが多かったのですが、PSIMを導入することで、開発にかける時間を大幅に短縮できたり、回路設計から部品仕様がどのようにして決まるのかを理解できるようになり、非常に助かっています。次のステップでは、汎用部品としてどのような仕様の部品を提供すればお客様に満足いただけるのかを検討するために、PSIMを活用したいと考えています。
また、PSIMには磁気要素のモデリング機能もありますので、リカロイ™インダクタの磁気特性をモデリングし、独自のデバイスモデルを提供したいと考えています。さらに、弊社の電流センサの特性をモデリングし、スイッチング電源を流れる電流波形をモニタリングした時に得られる電流センサ出力の過渡応答的な波形追従性を、スイッチング周波数をパラメータにしながらシミュレーションできないかと検討しています。この点については今後Mywayプラスさんに是非ご相談したいですね。
PSIMに対するご意見とご要望
PSIMの良いところは、材料特性も含めて部品の特性をモデリングし、その部品を回路と連成して解析できるところではないでしょうか。また、回路図を作成したり、解析方法を設定したりするためのエディタが優れものだと感じます。私が初めて回路シミュレータを使ったのは、今から25年以上も前になります。その当時は、回路構成の記述、解析方法の記述も、全て英数字の羅列でした。このため記述ミスをよくしたので、解析できるようになるまでにえらく手こずったものです。10年ぶりに触った回路シミュレータがPSIMなのですが、実際に使ってみたところ、直感的な入力が可能で、すごく使いやすいと感じました。サクサク描けて、サクサク解ける。この点は見逃せないですね。
改善点を強いて挙げれば、PSIMの日本語版があればもっと便利ですよね。回路シミュレータに不慣れなエンジニアでも、PSIMを初めて触ってから習熟するまでのラーニングカーブをさらに速くでき、普及が広がるのではないでしょうか。
また、今以上に直感入力・直感操作が可能になると、さまざまな物理現象を等価回路に置換えて考えるためのツールとしても、活用の道が広がるのではないかと思います。PSIMがユーザーフレンドリーなものにどんどん進化を遂げると、ひょっとしたら、小中高校生の理科離れを食い止め、ゲーム感覚でパワーエレクトロニクスの電気回路を操る人材が育つかもしれませんね(笑)。
今後の技術動向として東日本大震災で痛感したエネルギーマネジメントの重要性
今後の技術動向をどう見るかというのは、大変大きな切り口ですので、お応えするには、荷が重すぎると感じます(笑)。そこで、未曾有の被害をもたらした東日本大震災に論点を絞り、東日本大震災を経て技術は何をすべきなのかといった切り口で考えてみたいと思います。
私は東京に単身赴任して3年目ですが、自宅は震度6弱の地震災害を受けた宮城県大崎市にあります。幸い沿岸部のような津波被害はなかったものの、地震の揺れによる被害は大崎市が最も大きかったと聞いています。実際、倒壊したり、傾いて住めなくなった家屋やビルが多く、この半年でこうした建物が立てずいぶん壊されました。自宅のある大崎市に帰るたびに空地が増えていく様に、3.11から半年経た今でも驚かされています。そんな状況ですから、震災の2日後に何とか家族の元へ駆けつけた時には、ライフラインのうち電力は完全に途絶えていましたし、ガソリン不足も既に始まっていました。電力は電気事業者の方々のおかげで、1週間ほどで復旧しましたが、復旧するまで毎晩、街は日没とともに暗闇に包まれました。日頃の地震対策が功を奏してか、幸い自宅は大きな被害を免れましたので、避難所生活には至りませんでしたが、家族と家の中でロウソクの火を頼りに生活しました。日中、市の対策本部を訪ねてみると、家族や親戚、友人との連絡手段を確保するためでしょう、携帯電話を充電するために非常用発電機の電力を求めて長時間列をなして待つ人の姿も目立ちました。市内の移動には自転車が大活躍しましたが、大きな余震が続いていましたし、鉄道路線は当然ながら全面ストップしていましたので、いざ避難しようにも頼りになるのは自分の車です。このためガソリンを入手しようと、寒い中(当時3月中旬)5時間も並び、ようやく調達できたガソリンは20リットルに満たない、といった経験もしました。そんな不自由さの中で、自宅に太陽光発電や蓄電池があったら…ガソリンに頼らず走れるプラグインハイブリッド車か電気自動車があったら…と心の底から思いました。
それまでは電気事業者が供給してくださる電力に大きく依存する生活をしてきたわけですが、震災のような緊急時を考えると、これに頼らずに済む自前の電力を確保するべきだと、つくづく思ったわけです。その後、福島第一原発の被害が甚大であったために、それまで昼夜を問わずフル出力で発電して電力のベース供給源となっていた原発が相次いで停止したことから、ピーク時の電力不足が問題となり、ピーク電力を下げるために、暑い思いをしながら日本中が不自由さに耐え忍んだわけです。その過程で、原発依存のエネルギー基本計画は白紙撤回され、再生エネルギー特別措置法が成立し、日本の電力事情は大きな転機を迎えました。こうした経緯をたどってみても、全てを自前でとは思いませんが、緊急時にも平常時にも使える電力をある程度は自前で備える、そういう発想に変わらなければならないのだと思います。人が生活で電力を自前で持てるようにすること、いわゆる分散型電源の概念ですが、これは今後技術に求められる方向性ではないでしょうか。
先日、日本のパワーエレクトロニクス分野の第一人者である東京工業大学名誉教授・深尾正先生とお話する機会を得ました。先生は、エネルギーセキュリティ、地産地消、負荷平準化を考慮した直流配電システムを平成8年に提唱されています。私が東日本大震災を経験しながら、こうしたシステムがあれば…と思ったことを、既に15年も前に提唱されていたわけですが、震災被害を大きな教訓として復興を遂げるためにも、エネルギーセキュリティ、地産地消、負荷平準化の概念に向かってパワーエレクトロニクス技術が創造され研ぎ澄まされていくべきなのだろうと思います。
技術には今後もこうした社会ニーズに応え続けていくことが求められるのだと思います。私自身も、社会ニーズに合致するエネルギーマネジメントシステム、これを支える電子部品を手がけることで、震災復興の一助になりたいと願っています。
インタビューを終えて
貴重なお話をありがとうございました。日本のエネルギーのあり方を変える、そんな大きなビジョンを持ってお仕事をされていて、PSIMもお役に立てていることがわかり、大変勉強になりました。本日は、ありがとうございました。
聞き手:清水 美紀


